2014年2月13日木曜日

2014-02-13

まだアンバランスさが宿る若い人たちの明暗のドラマに大人たちの心も空に吸われていく。

2014/2/13付

 「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心」。旧制盛岡中学の生徒のころ、恋と文学に夢中だった石川啄木がのちに自身を回想した一首である。季節は春だろうか。北国の高い空は、少年の不安や焦燥や野心をゆったりと吸い込んでくれたに違いない。

▼まだまだ子どもに見られるけれど少し大人の感情も宿り、そのアンバランスに自分でも戸惑う――。15歳といえばそういう時期だ。だからこそ怖いもの知らずでもある。ソチ五輪のスノーボード男子ハーフパイプの平野歩夢選手はそんな「十五の心」と、よく鍛えた体とを会場の夜空に誰よりも高く吸わせて「銀」を得た。

▼雪上競技では五輪史上最年少のメダル獲得だという。歴史に残る快挙だが、ゴーグルを外せば面立ちにあどけなさが浮かび、記者会見での言葉もイマドキの中学生らしくて飾りがない。こういう若者が世界のひのき舞台で悠然と闘って優勝に肉薄した。テレビの前の観客たちはその軽やかな精神に触れ、声をのむばかりだ。

▼「銅」をもぎ取った平岡卓選手も18歳。2人が表彰台に上るのと前後して、ジャンプ会場では17歳の高梨沙羅選手がまさかの失速でメダルを逃し、涙にくれていた。無心の勝利と、重圧下の敗北……。若い、ほんとうに若い人たちの明暗のドラマが胸に迫る五輪だ。遠いソチの空に、大人たちの心も吸われていくのである。
「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心」。旧制盛岡中学の生徒のころ、恋と文学に夢中だった石川  :日本経済新聞

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