欧州各地で広がる移民抑制という大きな箱が目につきだすと、いつしか独裁国家が現れる。
箱はふしぎだ。たいていは四角い。中に何があるのか、知りたくなる。見せてはならない大切なものだろうか。金銀財宝か。いにしえの人は魂を封じこめたり、幸福をよぶ力をおさめたりできると信じていた。浦島太郎の玉手箱のような謎めいた話が各地に残っている。
▼むかし、魔物が美少女をさらっていった。白いハトが現れて、少女のあやうい命を助ける。教えに従い、大きな箱舟を造って隠れた。窓も戸もない。食べ物を積みこみ、海を漂う。流れ着いた土地で、王子さまに出会う。はるばる追ってきた魔物をみんなで退治する。東欧ハンガリーに残る、箱が幸せをつれてくる民話だ。
▼こちらは、ずいぶん様子が違う。ハンガリー政府がシリア難民などを船のコンテナで造った施設に入れるそうだ。柵などでの流入制限に加え、すべての難民を鉄の箱に集めて、外出もさせない。オルバン首相は、トランプ米大統領に共感している。イスラム圏7カ国の入国制限などをみて、管理を強める気になったらしい。
▼ハンガリーだけではない。欧州各地でも、移民抑制など大衆受けする政策をかかげる動きが広がっている。国の権限を強める政治運営も頭をもたげる。鉄の柵や箱で、なにやらよみがえるのは、強制収容所の悪夢だ。つごうの悪いものは押しこめる。大きな箱が目につきだすと、いつしか独裁国家という魔物がやってくる。