2014年2月26日水曜日

2014-02-26

「アンネの日記」関連書籍が破られた事件で、人の記憶やアンネの生命力が揺るぐことはない。

2014/2/26付  ことさら覚えようと思わなくても、書き出しの一節がぼんやり、長いこと頭に残っている本がある。「あなたになら、これまでだれにも打ち明けられなかったことを、なにもかもお話しできそうです」(深町眞理子訳)で始まる「アンネの日記」も、一冊に挙げられる。 ▼いや、読者個人の記憶だけではない。キティーと名づけた日記帳に少女が2年あまりつづったあけすけな話は、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺という人類すべての記憶につながっている。東京や横浜の図書館で「アンネの日記」や関連の書籍が破られた事件が気味悪いのは、人の記憶を切り裂くような仕業だからである。 ▼ジャーナリストか作家になりたかったアンネは記している。「わたしの望みは、死んでからもなお生きつづけること!」。本を書いたり新聞記事を書いたりという夢はナチスに砕かれてしまったが、命という重すぎる代償を払って、彼女とその文章は類いまれな生命力を得た。事件は生命力に対する卑劣な挑戦ともいえる。 ▼菅官房長官は「恥ずべきこと」と述べ、警視庁は捜査本部をつくった。事件はこの国のいまの空気を感じさせもするが、まだ背景は分からない。だから犯人には、言いたいことは堂々と言え、とだけ伝えておく。こそこそ本を破いて回るような甘ったれに、人の記憶やアンネの生命力が揺さぶられるはずなどないのだから。

ことさら覚えようと思わなくても、書き出しの一節がぼんやり、長いこと頭に残っている本がある。「あなたになら、これまでだれに  :日本経済新聞

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