2014年2月21日金曜日

2014-02-21

日本人は不要なものに囲まれ窮屈に暮らしているが、者に執着せず想念 を大切にしてほしい。

2014/2/21付

 色あせた写真、古い領収書。箸が1本、なにかの部品、そしてお年玉袋……。中身まで残っていて思わず歓声を上げる。引っ越しで家具を動かすと、乱雑な過去と遭遇する。でも、その度に感慨にふけっていては、日が暮れてしまう。喜怒哀楽を封じて手だけを動かす。

▼今年もまた異動や転勤の季節がやってきた。住宅地のあちこちで、停車中のトラックや粗大ゴミが目立つようになった。この週末からが一番忙しい勝負の時。引っ越し業者の親方が、そう張り切っていた。消費税の引き上げで住宅の工事も増えている。街全体がそわそわした空気に包まれ、経済の鼓動が聞こえる気がする。

▼モンゴルの遊牧民は、引っ越しに特別の感情を抱かないそうだ。年に4回も移動するのだから当然だろう。物をため込めば、運ぶのが面倒で置き場所もとる。日本人ひとり当たりの所有物の数は約1万個だが、モンゴル人は約3百個だという。おそらく多くの日本人は、本当は要らない物に囲まれて、窮屈に暮らしている。

▼「放した馬は捕まえられるが、放した言葉は捕まらない」「百歳の人はいないが千年の言葉はある」。モンゴルの格言である。物に執着しない人々は、その代わり言葉を大切にするという。言葉とは、心の記憶であり想念であろう。見習うべきかもしれない。引っ越しは、自分にとり何が本当に大切かを問う好機でもある。
色あせた写真、古い領収書。箸が1本、なにかの部品、そしてお年玉袋……。中身まで残っていて思わず歓声を上げる。引っ越しで家  :日本経済新聞

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