2014年2月25日火曜日

2014-02-25

「女性の社会参加は昔から日本のテーマであり」、安倍政権の「女性が輝く国」戦略は実を結ぶか。

2014/2/25付

 林芙美子の絶筆となった未完の作品に「めし」という小説がある。舞台は新聞に連載していた昭和26年当時のサラリーマン家庭だ。大阪・北浜の証券会社に勤める岡本初之輔を夫に持つ、28歳の三千代。結婚して5年たち、家事で毎日が過ぎていく暮らしが物足りない。

▼同窓会で、料理店に嫁いでのびのびとした時間が持てないという友達から、「御主人が、お勤めだから、一番、幸福なンじゃないの?」と言われる。が、決してそうは思えない。とうとう初之輔に、「私ね。こんな、女中のような生活、たまンないンですッ」と怒りをぶつける。女性の内面の丁寧な描写は作者ならではだ。

▼戦争が終わり、ようやく人々の生活が安定し始めてきたころから、早くも芙美子は家庭に入る女たちの悩みをかぎ取っていた。高度成長期に入ると、男性は一家を養い、女性は家庭を守るといった風潮が広がったが、それよりだいぶ前のことだ。「女性の社会参加」はかれこれ60年以上も昔からこの国のテーマといえよう。

▼今では働く女性はだいぶ増えたが、企業や官庁の要職は大部分を男性が占める。子供を預ける場所が身近にないなどの問題に、真剣に手を打ってこなかったツケが回っている格好だ。安倍政権の「女性が輝く国」戦略は実を結ぶかどうか。若いころ職を転々とし苦労を重ねてきた芙美子は、泉下でしっかりみているだろう。
林芙美子の絶筆となった未完の作品に「めし」という小説がある。舞台は新聞に連載していた昭和26年当時のサラリーマン家庭だ。  :日本経済新聞

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