2014年3月7日金曜日

2014-03-07

人の内面を隠す仮面は現実離れが過ぎると破綻するので、目立つ仮面には気をつけよう。

2014/3/7付

 天使がふわりと石畳に降り立つと、拍手と歓声が上がった。高さ100メートルの鐘楼からの優雅な空中散歩はベネチアのカーニバルのヤマ場。広場は仮面や中世風の衣装であふれ、ゴンドラが揺らす水面がまぶしく光る。今年も水の都は伝統行事の閉幕で冬に別れを告げた。

▼祭りの起源は12世紀の戦勝祝いとか。華やかな仮装で約10万人が踊り歩く。まるで迷宮都市を舞台にした演劇。仮面の列がなんとも不思議な光景を出現させる。なぜ仮面なのか。諸説あるが、変身による開放感が最大の魅力らしい。一種の無礼講で、素顔を隠し、男と女、貧富、老若も逆転し、日常とは違う自分を演じる。

▼スイスの精神医学者ユングによると、ひとはみな見えない仮面をかぶっている。ラテン語由来のペルソナ。ふだん外に見せている顔のことだ。制服の学生、勤勉な会社員、やりくり上手な奥さん、大胆に新分野に挑む経営者。だれもが適切な役割を果たすことで職場や家庭が、ひいては社会がうまく回っているのだそうだ。

▼だが、現実ばなれが過ぎると破綻する。18年つけた「現代のベートーベン」「全ろうの天才作曲家」の仮面は、劣化し砕けた。素顔が見えて、福島県本宮市は東日本大震災・追悼式典での依頼曲の発表を断念。復興への思いにも被害は及んでいる。祝祭でもないのに、目立つ仮面に出会ったら用心するに越したことはない。
天使がふわりと石畳に降り立つと、拍手と歓声が上がった。高さ100メートルの鐘楼からの優雅な空中散歩はベネチアのカーニバル  :日本経済新聞

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