2014年3月20日木曜日

2014-03-20

有効な策を講じれば花粉症の被害は和らいだのに、無策だった日本政府には呆れてしまう。

2014/3/20付

 宇良宇良尓照流春日尓比婆理安我里情悲毛比等里志於母倍婆。一見するとお経か呪文みたいだが、れっきとした和歌である。万葉集第19巻の最後をかざる1首。東大寺の大仏が開眼した翌年、万葉集の編者とされる大伴家持(やかもち)がよんだ。今から1200年以上も昔のこと。

▼漢字ばかりが並んでいるように見えるのは、万葉仮名を使っているから。これを平仮名に入れ替えて読みやすくすれば、広く知られた歌の姿になる。うらうらに照れる春日に雲雀(ひばり)あがり心悲しも独りし思えば。春の日差しの下で自然は華やいでいるのに妙にもの悲しい。近代的なメランコリーとも評される気分を伝える。

▼名門貴族の御曹司だった家持と違って感傷とは縁がないという人でも、春が来て憂鬱になるのが現代だ。戦後に大量に植えられたスギを最大の元凶とする花粉症が、今年も猛威をふるい始めた。いまや患者は2000万人を超えているとか。ゼロ歳から苦しむ子供がいる、とも聞く。新たな国民病と呼ばれて、もう30年だ。

▼スギが花粉を大量に飛ばすようになるのは、樹齢30年を迎えるころからだという。そうした成熟期のスギを毎年5%ずつ伐採するだけで、この国民病がもたらす被害はずいぶん和らいでいたのではないか。けれども、霞が関も永田町も実のある手を打ってこなかった。無為無策無芸大食無能力…。本当の呪文ができそうだ。
宇良宇良尓照流春日尓比婆理安我里情悲毛比等里志於母倍婆。一見するとお経か呪文みたいだが、れっきとした和歌である。万葉集第  :日本経済新聞

0 件のコメント:

コメントを投稿